校正分銅内蔵型電子天秤は特に分解能の高い分析用電子天秤には有効な機種と言えます。
それは、大きく分けて二つの要因に因る測定誤差を抑えることが出来るからです。
一つは電子天秤自体の電気的・経年的な変化、主にスパンドリフトについての補正が何時でも出来ること、もう一つは環境の変化についての補正が出来る点に有ります。
環境については重力加速度(設置場所と地球潮汐=月の引力に起因する重力加速度の変化)と空気密度(試料に対する空気浮力)の補正に分けることが出来ますが、ここでは空気密度の変化が電子天秤による試料の測定に与える影響について考えてみました。
化学天秤や直示天秤を使用して重量の測定をする場合は、試料と比較する分銅が同一環境に置かれるために空気密度の影響も同じであると考えることが出来ます。
しかしながら、電子天秤の場合は記憶させた分銅の電気的重量と試料を比較して重量を表示させているので、分銅の質量を電子天秤に記憶させた環境と試料の測定が行われた環境に違いがある場合、その空気密度(浮力)の差が試料の重量表示に影響を与えます。
ここで、密度8.00g/㎝
3の分銅(100g)を使い、温度20℃、湿度50%、気圧1013hPaの環境でスパン校正「キャリブレーション」された秤量101g読み取り限度(目量)0.01㎎の電子天秤を使い、同一の分銅を気圧のみ1003hPaに変化した環境で測定した場合について考えてみます。
1013hPaの環境でスパン校正された電子天秤で分銅は、当然のことながら100.00000gと表示され、密度が8.00g/㎝
3ですから、その体積は12.5㎝
3と求めることができます、空気密度は公式から1013hPaでは1.1989㎎/㎝
3ですので、このとき分銅には14.987mgの浮力が働いていることになります。
次に1003hPaの環境では分銅の体積は変わりませんが空気密度が1.1871㎎/㎝
3になるため、分銅には14.838㎎の浮力が働きます、その差0.149㎎分銅に働く浮力が小さいことで電子天秤の表示は100.00015gになります。
このことから、電子天秤はスパン校正した時と、同じ空気密度の空気密度での測定が重要になります、現実的には試料測定時にスパン校正をすることができる校正分銅内蔵型電子天秤は誤差を回避できる点で有効な機種といえるでしょう。
地球潮汐の影響 979763.7mGal±0.2mGal≒97.97637g±0.02mg
空気密度 pa={0.34848p-0.009024h×Exp(0.061t)}/(273.16+t)
1.では校正分銅内蔵型電子天秤の良い点だけを記述しましたが、もう一歩踏み込んで空気密度が試料測定に与える影響について考えてみたいと思います。
今度は、校正分銅内蔵型電子天秤(秤量100g読み取り限度0.01㎎)と密度の異なる試料(分銅:密度7.88/㎝
3、金、アルミ其々100g)を使って、測定について検証してみることにします。
気圧1013hPaの下で内蔵分銅は100.00000g密度が8.00g/㎝
3なので、その体積は12.50㎝
3内蔵分銅に働く浮力は14.987mgになります、気圧1003hPaの下では働く浮力は14.838㎎になります。又この時測定した試料(分銅)が100.00000gであった場合その試料(分銅)の体積は同様に12.69㎝
3と考えられ、試料(分銅)に働く浮力は15.215㎎になり、内蔵分銅との浮力差は0.228㎎になります。
同様に、1003hPaの下で試料(分銅)に働く浮力は15.064㎎になり、内蔵分銅との浮力差は0.226㎎になります。
内蔵分銅との浮力の差は其々0.228㎎と0.226㎎ですから空気密度が1013hPa~1003hPaに変化しても実質0.002㎎の変化であることが求められます。
次に、試料が金の場合は密度が13.90g/㎝
3ですからその体積は7.194㎝
3となり、それぞれの気圧での浮力は8.625㎎、と8.540㎎になり、内蔵分銅との浮力差はそれぞれ(-)6.361㎎と(-)6.298㎎になるので、金の環境の変化による浮力差は(-)0.063㎎になります。
最後に、試料がアルミの場合は密度が2.70g/㎝
3ですからその体積は37.04㎝
3となり、それぞれの気圧での浮力は44.4053㎎、と43.965㎎になり、内蔵分銅との浮力差はそれぞれ29.419㎎と29.127㎎になるので、アルミの環境の変化による浮力差は0.292㎎になります。
上記3種類の金属の例から密度の違いによる浮力の影響は避けることが出来ず、内蔵分銅の密度8.00g/㎝
3に比べて密度の小さい物の方が空気密度の変化の影響をより受ける事が判ります。
2.では試料の密度と空気密度の関係について記述しましたが、次に温度、湿度が管理された環境下で空気密度がどの程度変化するのか、又測定結果に与える影響について考えてみたいと思います。
温度=23℃±1℃、湿度=50%±5%、気圧1010hPa±10hPaの環境において、空気密度の最大値は1.1990㎎/㎝
3(22℃,45%,1020hPa)また、最小値は1.1655㎎/㎝
3(24℃,55%,1000hPa)になります。
ここで、校正分銅内蔵型電子天秤(秤量100g読み取り限度0.01㎎)を使い、2.で影響が最も大きいアルミ100gの試料を使って検証します。
空気密度が1.1990㎎/㎝3の時に内蔵分銅は100.00000gと表示され体積は12.5㎝
3になり、その時に内蔵分銅に働く浮力は14.987㎎、又空気密度が1.1655㎎/㎝
3の時にも100.00000gと表示され体積は同じですが働く浮力は14.569㎎になります。
アルミの密度は2.70g/㎝
3ですから、その体積は37.04㎝
3となります。
空気密度が1.1990㎎/㎝
3の環境でアルミに働く浮力は44.407㎎、又、空気密度が1.1655㎎/㎝
3の環境でアルミに働く浮力は43.166㎎、になり内蔵分銅との浮力差は、それぞれ29.420㎎と28.597㎎になるので、試料のアルミの環境変化による浮力差は0.822㎎になります。
同様の検証を密度が1.50g/㎝
3の試料100gで行うと環境の変化による浮力差は1.815㎎にもなります。
このように、内蔵分銅の密度8.00g/㎝
3に比べ、密度の差が大きい試料を高分解能の電子天秤を使って計量する場合には、測定環境や測定試料の総量が適切かどうかを、計量器の使用者が検証してみる必要はあるでしょう。
最後に、上記の話は高分解能の電子天秤で風袋を大きく使う場合や、比較測定を行う場合の話では有りませんので誤解の無いようにお願いします。
空気密度 pa={0.34848p-0.009024h×Exp(0.061t)}/(273.16+t)