「校正」と言う用語について辞書では「校正刷りと原稿を比べて誤字・誤植などを
訂正すること」と表記されています。
一方、JIS Z 8103-2000では「校正」と言う用語について「計器又は測定系の示す値、若しくは実量器又は標準物質の表す値と、標準によって実現される値との間の関係を確定する一連の作業。」と解説しています。 対応英語=calibration
備考:
校正には、計器を調整して誤差を修正することは含まない。
従来、電子天秤について校正といえば取扱説明書にもスパン校正、スパン調整、キャリブレーションと言う名称で、基になる分銅との対比によって重力加速度や経年変化に因る器差(偏差)補正などを行うことを意味していました。
当社でも、検査業務として合否判断をする上で「検査=はかりの調整(校正)を含む」作業を行っておりますが、最近ではISO,JCSSの影響か、お客様から単に『校正ができますか』とのお問い合わせを戴く機会が増えて参りました。
この場合、前出の校正では電子天秤の性能調整を行うため、多少とも「正確に秤ではかる」に寄与することができますが、JCSS校正では「不確かさの算出」のみで電子天秤自体の性能が変化することは有りません。
なぜなら、校正証明書についはJIS Q 17025P22 5・10・4・2に『校正証明書は数量及び機能試験の結果だけに関するものとすること』との記載があるだけですし、JCT20302 P10 12・1・3では『外部分銅による感度調整はその荷重の公称値における調整前偏差等を必要とする。』の記載はありますが調整行為を推奨する記載は見当らないからです。
また、(注)に記載されていますが、はかりの校正後の外部分銅による感度(スパン)調整も校正証明書を無効にするものとして制限されています。
JCSS校正によって、不確かさと偏差が算出され、トレーサビリティの証明がなされた電子天秤というだけで、その電子天秤の性能的な面や状態についての判断を示さず、使用者に委ね、校正時の調整も推奨しないばかりか、日常点検で仮に見つけられた感度(スパン)誤差の調整も制限するようなJCSS校正には疑問を感じます。
はかりのJCSS校正を行う時には、JCSS校正された常用参照標準を使い、JCSS発行
の『技術的要求指針(はかり)』JCT20302 P9 9.2の通り、『不確かさの見積もりに関する
ガイド(はかり)』JCG203S21 P10 3等を参考にした校正手順書に従って、不確かさの算
出をしています。
そこで、このガイドに従って「はかりの不確かさ」を算出し、その要素を一つずつ検証
すると、公称値ごとに示された「拡張不確かさ」の算出要素である「繰り返し性」や「偏置
誤差」は、どのクラス(E
2、F
2、M
1)の常用参照標準を使用しても変化しません。
公称値ごとに示された「拡張不確かさ」は常用参照標準が個々に持つ不確かさの値の合計(校正に使用した常用参照標準の測定値に対する信頼性の度合い)に影響されていることが判ります。
ガイドで示されている偏差を含んだ其々の公称値に対しての「不確かさ」という意味で
は理解できるのですが、「はかりの不確かさ」と言う表現を使うのであれば常用参照標準の不確かさは排除されるべきではないかと思います。
そもそも、はかりを質量比較器(コンパレーター)として使用するなら別ですが、ユーザーの測定試料が比重8.0の分銅とは限らないのに、より小さな「分銅の不確かさ」を使って「はかりの不確かさ」を小さく算出しても意味があると思えないからです。
最後に良い『はかり』とはどの様な秤でしょうか、再現性が良い、偏置誤差が小さい、
直線性誤差が小さい等が、ありますが基本は公称値に対して偏差(誤差)が無いこと
=正確に計量できることです。
そのためには測定環境を整え、日常点検を行い、その誤差が許容範囲を超えた場
合に適切な対処が取れることが重要です、適切な時期に協定値(器差)の判った分銅で、はかりのスパン調整(キャリブレーション)をおこなって戴くことや、外部に定期検査(校正)や調整を依頼することも有効な手段の一つと言えるでしょう。
はかり(電子天びん)のJCSS校正を行う場合JCT20302「技術的要求事項適用指針」P5 1適用範囲では「校正対象とするはかりに必要な技術的情報が明らかになっていることが必要である。」と記載されていますし、JCG203S21『不確かさの見積もりに関するガイド(はかり)』に従い、校正を行うには「感度の温度係数」が不可欠であり、「温度係数の値はメーカーによって保証されている。」との記載もあります。
この温度係数値はメーカーの仕様書から引用するのが一般的で、特に分解能の高いはかりを上位の分銅で校正する場合に『不確かさ』に影響を与えます。
では、この「感度の温度係数」には経年変化や異常は起きないのでしょうか?
この疑問についてメーカー各社(M.Z.S.A.S)に問い合わせてみたところ、「感度の温度係数」の保証は
製品出荷時と言うのがほぼ統一した回答でした。
ユーザーで使用するはかり(電子天びん)は、状態や使用条件が一定ではなく電子・機構部品の状態についても、そこまでの保証ができないというのが正しいのかもしれません。
はかりの不確かさを求める上でメーカーの保証が無い「感度の温度係数」を必要とする以上、その検証が必要になりますが、その検証は恒温室を備えた恒久施設内であれば可能なのですが現地校正においては物理的にまず不可能です。
このような検証の出来ない、又は検証を要求しない数値を算出因子として使用して求めた不確かさの値がトレーサビリティのとれたものであると言えるのか疑問を感じます。
※この件は、検証という意味では不十分だと思いますが2018.8.22発行のJCT20302第13版のP9 12.1.3で
「はかりの製造者の開示した仕様値を参照した場合、この事実を証明書に明記するか、顧客に知らせることが望ましい。」と記載されました。
過日、JCSS校正事業者様から十数年前の電子天秤の「感度の温度係数」の値についてお問い合わせを戴く機会がございました。
当社ははかりのJCSS校正には種々の問題点があると考え実施しておりません。
また、出荷後の電子天秤の感度の温度係数の値に対しても保証ができないので、確認の為、製品評価技術基盤機構 認定センター 計量認定課にその扱いについて以下の4項目を問い合わせ、ご回答を戴きました。
質問1 |
感度の温度係数を校正事業者に伝えた場合、この数値を使って作成された校正証明書の不確かさについて認定センターは責任を持てるのかどうか? |
回答1 |
弊機構は校正事業者の認定基準への適合を確認する認定機関であり、校正証明書の結果については校正事業者の責任の下で発行して戴いております。 |
質問2 |
メーカーとして検証、確認できない数値を伝える義務が有るのか無いのか? |
回答2 |
JCSSとして、はかりメーカーに温度係数の開示を義務付けるものではありませんので、各メーカーのポリシーでもって情報提供していただきたく存じます。 |
質問3 |
検証、確認していない数値を使用してJCSS校正証明書を作成しユーザーに提供しても問題はないのかどうか? |
回答3 |
はかり校正時の温度係数を確認することを義務付けることとすると、はかりの校正に要する手間やコストが大きくなってしまうため、最低限入手できる情報である、製造時の温度係数を用いて不確かさを評価することを容認しております。
これに関しましては、「ISO/IEC17025 3.4.6.3 注記3」ではGUMを参照する旨の記載があり、GUM (ISO/IEC Guide98-3)の4.3では、“製造業者の仕様”を不確かさの推定値として利用できる旨の記述があります。
なお、過去弊機構の質量分科会にて技術専門家に意見を求めた際にも“製造業者の仕様”の温度係数を用いることで問題ないという見解をいただいておりました。
|
質問4 |
感度の温度係数の求め方について資料を提供して下さい。 |
回答4 |
当方では温度係数の測定方法に関する資料を持ち合わせておりません。
各製造業者が自ら温度係数の測定方法を検討、確立している状況かと存じます。
上記の回答について検討すると、認定センターでは3の回答から感度の温度係数の検証についてはA.時間とコスト B.GUM (ISO/IEC Guide98-3)の4.3の記述 C.機構の質量分科会の技術専門家の意見という3つのお墨付きによって省略することを正当化しているように見えます。
しかしながら出荷後にどのメーカーも保証しない温度係数の値を使用しても「不確かさ」への影響は重力加速度、地球潮汐の様に無視できるぐらいに小さいのでしょうか?
そこで、認定センター発行JCG203S21不確かさの見積もりに関するガイド(はかり)事例2に記載されている感度の温度係数を少し大きくしたのが次の資料です。
【 校正の不確かさ見積り(JCG203S21ガイド事例2引用) 】
① 繰り返し性の計算
測定順序 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
はかりの指示値(g) |
199.9999 |
200.0000 |
200.0000 |
199.9999 |
199.9998 |
偏差(㎎) |
0.0 |
0.1 |
0.1 |
0.0 |
-0.1 |
測定順序 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
はかりの指示値(g) |
199.9998 |
199.9999 |
200.0000 |
199.9999 |
199.9998 |
偏差(㎎) |
-0.1 |
0.0 |
0.1 |
0.0 |
-0.1 |
|
50g時 |
200g時 |
繰り返し性の分散= |
1.778E-03 |
6.67E-03 |
繰り返し性の標準不確さ= |
4.216E-02 |
8.16E-02 |
目量= |
0.1㎎ |
丸め誤差の分散= |
1.67E-03 |
丸め誤差の標準不確さ= |
0.0408㎎ |
② 偏置誤差
測定順序 |
1(中心) |
2(左前) |
3(左後) |
4(右後) |
5(右前) |
はかりの指示値(g) |
100.0000 |
99.9997 |
100.0002 |
100.0003 |
99.9998 |
中心との差(㎎) |
― |
-0.3 |
0.2 |
0.3 |
-0.2 |
偏置荷重による相対分散値= |
3.33E-13 |
偏置荷重による相対標準不確かさ= |
5.77E-07 |
③ 正確さ(非直線性)
測定順序 |
1(25%) |
2(35%) |
3(50%) |
4(75%) |
5(85%) |
6(100%) |
積載荷重(W) |
49.999968 |
69.999993 |
99.99996 |
149.999928 |
169.999953 |
200.00002 |
はかりの指示値(X) |
50.0000 |
70.0001 |
100.0000 |
149.9999 |
169.9999 |
199.9999 |
偏差(㎎)=(X-W) |
0.032 |
0.107 |
0.04 |
-0.028 |
-0.053 |
-0.12 |
分銅の標準不確かさ |
0.015 |
0.0275 |
0.025 |
0.040 |
0.0525 |
0.05 |
参照分銅の分散 |
2.25E-04 |
7.56E-04 |
6.25E-04 |
1.60E-03 |
2.76E-03 |
2.50E-03 |
温度変動環境⊿t=1 |
温度特性= |
1.5PPM |
1.7PPM |
2.0PPM |
温度特性による相対分散= |
1.88E-13 |
2.41E-13 |
3.33E-13 |
温度特性による相対標準不確かさ= |
4.33E-07 |
4.91-07 |
5.77-07 |
はかりの校正結果
公称値(g) |
偏差 |
拡張不確かさ |
1.7PPM |
2.0PPM |
50 |
0.03㎎ |
0.14㎎ |
0.14㎎ |
0.15㎎ |
70 |
0.11㎎ |
0.22㎎ |
0.22㎎ |
0.22㎎ |
100 |
0.04㎎ |
0.24㎎ |
0.24㎎ |
0.25㎎ |
150 |
-0.03㎎ |
0.29㎎ |
0.30㎎ |
0.32㎎ |
170 |
-0.05㎎ |
0.32㎎ |
0.33㎎ |
0.35㎎ |
200 |
-0.12㎎ |
0.36㎎ |
0.37㎎ |
0.39㎎ |
|
さらに社内での温度係数測定の結果からも高分解能のはかりの校正においては少なからず不確かさに影響を与えることが確認できました。
4の回答で、そもそも認定センターが温度係数の測定方法に関する資料を持ち合わせていないこと自体が不思議ですし、製造業者ではない校正事業者が感度の温度係数の検証をしようとしてもその方法が認定センターから例示されないことで検証すらできないことも問題です。
加えて温度係数の測定方法についてメーカー各社(M,Z,S,A,S)にお問合せしたところ2の回答のポリシーよろしく、1社様よりご提示を戴けただけでした。
このような状況で現地校正においては検証、確認できない数値である「感度の温度係数」を校正証明書発行の必須条件にしているにもかかわらず、作成された校正証明書については認定センターが1の回答で全責任を校正事業者に負わせていることに違和感を覚えます。
たしかに、認定センターのいうA.時間とコストが理由であることは現実的に考えて理解できますがB.C.を理由にあげるのであれば何らかの検証結果が必要だと思います。
少なくとも、感度の温度係数について現実的に検証できないのであれば、認定センターは逃げ道として校正事業者に不確かさの値が便宜的に使用された「感度の温度係数」によって作成されたものであるということを校正証明書に記載させる義務があると思います。
これまでも、はかりのJCSS校正には問題点が有ることは述べて参りました。
認定センター発行の『不確かさの見積もりに関するガイド(はかり)』JCG203S21 の校正例では、「拡張不確かさ」はその算出構成要素に、はかりに由来するものとして「繰り返し性」、「丸め誤差」、「偏置誤差」、「感度の温度係数」が使われ、「参照標準の不確かさ」を加味することで算出されていますが、はかりに生じる誤差はこれだけでしょうか。
技能試験に使われた分析用天秤でも経験しましたが、検査をしていると「繰り返し性」や「偏置誤差」が良好にも関わらず、キャリブレーション(校正)を行う度にスパン値が変わる校正分銅内蔵型電子天秤に出会うことが有ります。
例を挙げると、秤量2000g読取限度0.01gの内蔵型電子天秤でキャリブレーション(校正)後に分銅を載せると、その都度スパンの表示値が2000.01gや1999.97gに微妙にずれる現象です。
その中心値や平均値、最大最小値は複数回の測定により求めることができますが、スパン値は規則性なくずれことが一般的です。
原因は校正機構のヒステリシスやガタ付き、内蔵分銅の質量と秤量との割合、梃比と分銅の位置関係等が考えられ、幅の大小は有りますが、このような現象は校正分銅内蔵型電子天秤の中でも高分解能や大秤量の機種に見受けられる様に思います。
校正作業者はこの様な天秤の存在について少なからず認識していると思うのですが、認定センター発行の資料には一切記載が有りません。
外部分銅によるキャリブレーション(校正)ではJCSS校正時に最小の偏差を校正データとして取得することが可能ですが、内蔵分銅によるキャリブレーション(校正)ではスパン値の変化がある場合、「正確さ」の偏差を永続的な校正データとして取得することは難しいといえます。
合否の判定もなく、偏差の処理及び分散を考慮することもなく、「拡張不確かさ」を記載した校正分銅内蔵型電子天秤のJCSS校正証明書に、はたして信頼性が有るのか甚だ疑問です。
これまでも「はかりのJCSS校正」について懐疑的な立場を取って参りましたが、再び「見掛けの質量」から疑問が生じたことを残念に思います。
質量測定の基準は分銅ですが、その見掛け上の質量は考察資料の「空気密度が分銅に与える影響について」で述べた通り、環境変化に対し非常に不安定なものといえるでしょう。
とはいえ、はかりのJCSS校正に使用する常用参照標準の証明書の注釈には「協定質量は、温度20℃、空気密度1.2kg/㎥の環境においてつり合う密度8000kg/㎥の標準分銅の質量である。」と記載され、分銅校正時の環境において浮力補正されたであろう協定質量は、特定標準器とトレーサビリティがとれていると考えられます。
そこで、認定センター公開文書の「不確かさの見積もりに関するガイド」(はかり)文書番号JCG203S21-13のP9 3.校正の評価事例2(電子式非自動はかり)を見ると、205g/0.1mgの分析天秤を表5「常用参照標準(E₂級)」で校正した例が示され、表8「正確さ評価データ」では協定質量から算出された荷重値と指示値から求められた差の0.001mgの桁を四捨五入したものを偏差として、表10「校正結果」の数値として使用されていることが分かります。
しかしながら、大多数の電子天秤が最小表示値の下の桁を四捨五入で処理されていることを考えると、この分析天秤の場合0.01mg の桁には何らかの数値が有り、四捨五入されて0.1mgまでの表示になっていると考えられます。
常用参照標準の協定値を0.001mgまで表記し、分析天秤の偏差の値を0.01mgの桁に丸めたとしても、普通に考えると有効な偏差の値は0.1mgまでの表記になると思います。
また、技術的要求事項適用指針(はかり)文書番号JCT-20302-15のP14 別添1-3-2電子式非自動はかり校正証明書記載例の備考欄には「2)校正の条件 温度〇℃~〇℃、湿度〇%~〇%、大気圧〇hPa~〇hPa」と記載されています。
はかりのJCSS校正が,空気密度1.2kg/㎥の環境以外の場所で行われることが前提であることを考えると、資料としては温度、湿度、大気圧の表記は最低限必要だと思います。
加えて、分銅の浮力補正を行わず、電子天秤の見えない桁に分銅の協定質量を偏差として援用するのであれば、文書番号JCT-20302-15のP9 12.結果の報告(校正証明書) 12.1.1) の「外部分銅により感度調整を行った場合は、その荷重の公称値における調整前のはかりの偏差及び感度の調整に用いた外部分銅の識別符号を記載すること。」の文章を最低限「校正に使用する分銅を外部分銅として必ず感度の調整を行う必要が有る。」とし、校正証明書には分銅の密度の記載も必要であると考えます。
そうでなければ、JCSS校正証明書の協定質量が同じで密度の異なるA、B 2つのE₂級の常用参照標準が、空気密度1.2kg/㎥以外の環境でも釣り合うことになってしまいます。
さらに、12.1.1)(注)には「はかりを校正した後に外部分銅を使って感度調整を行うと、「校正を無効にする調節を受けた」と見なされるので、この点については、校正証明書に記載する必要はないが、校正事業者から顧客に対して注意喚起しておくことが望ましい。」と有ります。
当然、トレーサビリティと先の分銅AとBの密度の関係に由来すると考えられますが、分析天秤の多くに装備されている密度不明の内蔵分銅を用いて感度調整を行った場合に、校正が無効にならない根拠はどこにあるのでしょうか?
仮に、電子天秤の校正時に内蔵分銅の感度調整を行ったとしても、校正に使用した分銅との密度の差異により環境が変われば、校正されたはかりの偏差の値は、校正に使用した分銅の協定質量と差異が生じるという意味では何ら変わりが有りません。
電子天秤を比較器に置き換えると、分銅AとBが空気密度1.2kg/㎥の環境でのみ釣り合うのと同様、A(校正に使用する分銅)とC(内蔵分銅)は、たとえCの質量が演算処理されたものであったとしても、感度調整を行った環境でのみ釣り合います。
また、これまでに入手した高分解能の分析用電子天秤のJCSS校正証明書を見る限り、先の協定質量の偏差への利用はガイドに則してなされていますが、分銅の密度並びに校正環境から導き出される空気密度については、技術的要求事項適用指針に従ったものか、記載はされていないようです。
そもそも、高分解能電子天秤の校正証明書に分銅(常用参照標準)の協定質量を利用して偏差を記載するのであれば、校正環境下での分銅に対する浮力について検証や補正をした数値を協定質量として使用する必要があり、安易に高分解能電子天秤の偏差として援用すべきではないと考えます。
最後に、拡張不確かさを逃げ道にするなら別ですが、常用参照標準の密度の表記もなく、検証や証明もできない偏差が記載された高分解能電子天秤のJCSS校正証明書が、公開文章に従って発行されていることに対して疑問を持たず、質量測定の限界を考えない関係者は猛省すべきと思います。