計量器の信頼性確保のために、自主点検や検査を行う時に使用する分銅について
どの程度(JCSSの場合はクラス)のものを選べば良いのでしょう。
以前は計量検定所で検定を受けた一級基準分銅がその頂点にあり、有効期限、成績書の面でも安心でしたが、国際化と行革の名の下、OIML規格に合わせてクラス分けされた分銅が主流になりつつあります。
メーカーの中には
「計量に際した許容誤差の1/3以下、電子はかりの目量の±1/3以下」を分銅の許容誤差の選択基準にしているところもあり、一部の
はかりを例にF
1、F
2クラスの校正用分銅を推奨しているメーカーもあります。
しかし、対象の
はかりの仕様が秤量3kg・目量(最小表示)0.01gの場合、上記の選択
基準では質量3kgで器差が±3㎎以下になり、E
2クラスの分銅でも2kg程度まで、さらに秤量200g・目量(最小表示)0.1㎎の
はかりではE
1クラスでも50gまでしか点検や検査が出来ないことになります。
分銅の選択基準が誤っているのか、それともこれ以上のクラスの分銅が必要なので
しょうか?
そこで、先出の「1/3以下」という選択基準が何を根拠に決められたのか、調べてみ
ると、検定検査規則205条の「非自動はかりの器差検定に使用する分銅は器差が検定する
はかりの検定公差の1/3を超えないもの」又は“JIS B 7609 分銅”の6.最大許容誤差6-2からの引用ではないかと思います。
ここで検定検査規則205条が適用される「はかり」について調べると、取引・証明用
=特定計量器が対象であることが判ります。
特定計量器の目量は最も小さいものでも0.01g以上と規定されているので分析用天秤等は対象外という事になります。
一般的に各メーカーの特定計量器はそうでない
はかり(天秤)の最小目盛(読取り限度)を補助目量(補助表示)にし、一桁上の位を検定目量として型式承認を受けたはかりを特定計量器としているものが多いようです。
このような理由から、分銅の選択基準を単に目量や許容誤差の1/3にするのは、 JIS Q 170254.7.1「良好な情報の伝達」の条項に照らしても説明不足だと思います。
あえて検定検査規則を特定計量器外の
はかり・天秤に当てはめるなら「分銅の最大許容誤差は最小表示(読取り限度)の10倍の1/3」が妥当ではないでしょうか。
これでも秤量100g最小表示0.01㎎の分析用電子天秤にはどのクラスの分銅が最適なのか疑問は残りますが・・・・・・。
計量器の信頼性確保のために行う日常の自主点検や検査を行う時に使用する分銅についてF
1、F
2クラスの校正用分銅が本当に必要なのでしょうか。
F
1、F
2と言えば計量法上の特級、1級基準分銅と同等クラスです。
そこで、はかりの性能の判断について考えるにあたり、(独)製品評価技術基盤機構が発行している「不確かさの見積もりに関するガイド(はかり)」 JCG2030S21を見ると、その判断要素に分銅を使用する項目は1、繰り返し性の評価 2、偏置誤差評価 3、正確さ(直線性)評価の3要素しかありません。
作業内容から、1と2については分銅の精度は必要なく、毎回、同一の精密分銅を使用することでも十分その点検が可能です。
3については分銅の荷重量ごとに偏差(器差)まで点検・検査するのであれば、使用する分銅全てに器差又は協定値が必要になります。
はかりが正常か異常かの判断をする場合、通常は1,2の結果で、ある程度の判断が可能です、3についてはスパン調整(キャリブレーション)による影響等も考慮する必要があるため、技術的知識も必要になります。
上位の分銅を所持し適切な管理・知識・作業のもと、計量器の管理を行うことは素晴らしいことですが相当の費用・時間が掛かるのも事実です。
計量管理の程度、対象のはかりの精度(分解能)、効果、コスト等によって、分銅を選択することも重要だと思います。
ホームページの「電子天秤の日常点検」の項も参考にして頂ければと思います。
分銅の質量は使用頻度、使用環境、保管状況によって変化し、校正や点検に使用する以上、質量変化を避けることはできません。
そのため、はかりの校正事業者が校正に用いる常用参照標準(分銅)についてはJIS Q 17025の5.6.3.3で校正周期に合わせた中間チェックが求められています。
認定センターに中間チェックについて伺うと「中間チェックは校正事業者が参照標準の安定した状態を自身で確認、立証する為のもので、その
立証の為に必要な程度に中間チェックの実施が必要」とのことでした。
また、その手法について確認すると
「分銅の質量値の確認」が基本になるとの回答があり、その手法として以下の様にご紹介を頂きました。
1. 管理用の分銅と十分な精度のはかりを用いて質量値を確認する。
2.外部機関にJCSS校正を依頼し、中間チェックとする。
3.数年間の定期校正の質量値のデータが有り、その値が許容範囲内で安定している場合そのデータを裏付けとして、外観チェック等の簡易な中間チェックを行う。
では、これらの方法で本当に分銅の質量値(協定値)の確認ができるのでしょうか?
まず、1では上位の常用参照標準(分銅)校正事業者と同様の設備を用いたとしても管理用の分銅に質量変化が無い保証は有りません。
次に、2では協定値の確認は確実ですが、これでは多大な費用をかけてJCSS校正を1.5年毎に実施しているにすぎません。
結局、3の外観チェックとデータの裏付け以外に方法はなく、せいぜい十分な精度のはかりを用いて不確かさの範囲内外の確認を行う程度で、
質量値(協定値)の検証までは難しいと思います。
そもそも、校正事業者が中間チェックにおいて手持ちの常用参照標準の質量値の確認や立証をすることは現実的ではないと言えるでしょう。
はかりの使用者が日常の計量管理に使用する分銅については特に校正周期の規定は有りませんが、計量士の方が取引・証明用はかり(特定計量器)の検査に使用する基準分銅の有効期間は基準器検査規則第21条で「鋳鉄製又は軟鋼製の分銅は1年、特級基準分銅は3年、その他は5年」と決められています。
又JCSS登録・認定事業者がはかりのJCSS校正に使用する分銅(参照標準)の校正周期は認定センター発行文章JCT20301技術的要求事項適用指針(分銅等)4.3.1.1で「校正を行った日の翌月の一日から起算して原則3年以内とする」の規定によって3年周期と解されています。
然しながら同書第11版の4.3.1.3には「校正周期の延長」の記述が有り、
「校正測定能力に有意な質量変化を生じさせなければ」等の条件を満たす必要は有りますが最長5年以内まで校正周期の延長が可能です。
この規定が基準器検査規則の1級基準分銅の有効期間と整合性が有ることから、当社もF
2クラスの分銅(参照標準)の校正周期を5年に延長することを2018.3に認定センターから認められました。
同文章ではF
1クラスの分銅も拡張不確かさの大きさからは延長の可能性は有りますが、特級基準分銅同等と考えると基準器検査規則との整合性がなくなりますので認定センターが延長を容認するかどうかは判りません。
※基準分銅の有効期間は、基準器検査規則第21条に規定されており、鋳鉄製又は軟鋼製の分銅は1年、特級基準分銅は3年、その他は5年となっています。
(同第84条で、特級はステンレス鋼に限定、鋳鉄・軟鋼製は2級・3級の200g以上のものに限定されています。)
※校正周期の延長については「常用参照標準」,「参照標準」といった、統一性のない語句での表現ではありますが、2018.8.22認定センター発行文章JCT20301 第15版及びJCT20302第13版で再掲載されました。
認定センター発行文章が適切に更新されていれば、本来ならもう少し早い時期に延長が認められたことを考えると残念でなりません。
校正分銅の校正周期の延長については先にも述べましたが、ここでは小社の実際の手順について簡単に記載したいと思います。
条件としてJCT20302第13版P6,4.2.2.「校正周期の延長」に記載されている「過去に3回以上のJCSS校正を行った実績が有り、校正測定能力に有意な質量変化を生じさせない適切な管理状況の実態を証明できることが審査で認められた場合に限り、校正周期を5年以内と延長できる。校正周期を原則の3年から上限5年の範囲で延長する場合、その変更が妥当であるかを証明するため、以下の根拠が求められる。」と記載されています。
①については参照標準校正事業者にもよりますが、校正時に添付された過去3回分の校正履歴(協定値の変化)又は校正証明書記載の協定値が其々の分銅の不確かさ以下であれば基本的には問題ないと思います。
理由は、校正証明書に記載する、はかりの不確かさには影響が及ばないからです。
当社の場合はM社から提供された過去3回分の最大協定値差の2倍が其々の分銅の不確かさ以下であることを審査資料として提出しました。
②については校正事業者であれば参照標準の定期検査はこれまでの中間チェックを毎年定期的に行う規定の文章と実施実績があれば問題ないと思われます。
文章については「質量標準管理規則」や「校正管理規則」等に記載の3年を5年に修正したものを「記載事項変更届」と共に定期検査後に提出いたしました。
何れにしても参照標準がF2クラスで、適切に管理されていれば計量法上も問題ないと考えられます。